高齢者が知るべき相続対策の基本と家族への思いを繋ぐ方法
年齢を重ね、ご自身の将来やご家族のことに思いを巡らせる中で、「もしもの時」のために何をしておくべきか、といった不安や疑問を感じる方は少なくありません。特に、ご自身の財産を大切なご家族に円滑に引き継ぎ、ご自身の思いを伝えるための「相続」については、早めの準備が安心に繋がります。
このコラムでは、高齢期の皆様が知っておくべき相続の基本的な考え方や、具体的な対策、そして専門家へ相談することの重要性について、分かりやすくご説明いたします。
相続とは何か:基本的な考え方
相続とは、ご自身が亡くなった際に、ご自身の財産や負債が、ご家族などの「相続人」に引き継がれる法的な手続きを指します。ご自身が築き上げてこられた財産を、ご自身の意図した通りに、またご家族が困らない形で引き継ぐためには、生前の準備が非常に大切になります。
遺言書を活用する重要性
遺言書は、ご自身の財産を「誰に」「何を」「どれだけ」引き継ぐかを明確に記すための大切な手段です。遺言書がない場合、法律で定められた相続人(法定相続人)全員で、遺産の分け方について話し合い(これを「遺産分割協議」と呼びます)、合意する必要があります。この協議がまとまらないと、ご家族間でトラブルになる可能性も考えられます。
遺言書を作成することで、以下のようなメリットがあります。
- ご自身の意思を明確に伝えられる: 特定のご家族に特に財産を残したい、ご家族以外の方に遺贈したいなど、ご自身の希望を具体的に実現できます。
- 相続手続きがスムーズになる: 遺言書があれば、遺産分割協議の手間を省き、相続人の方々がスムーズに財産を引き継げます。
- ご家族の負担を軽減できる: 遺産分割を巡る争いを未然に防ぎ、ご家族の精神的・時間的な負担を軽減することに繋がります。
遺言書の種類
遺言書にはいくつか種類がありますが、一般的に利用されるのは以下の二つです。
- 自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん)
- ご自身で全文を書き、日付と氏名を記して押印するものです。費用はかかりませんが、書き方に不備があると無効になる可能性があります。また、紛失や偽造のリスクも考慮する必要があります。
- 2020年7月からは、法務局で自筆証書遺言を保管してもらえる制度が始まりました。これにより、紛失や偽造のリスクを減らすことができます。
- 公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)
- 公証役場で公証人(法律の専門家)が作成する遺言書です。証人2名以上の立ち会いが必要ですが、公証人が作成するため内容に不備が生じにくく、原本が公証役場に保管されるため、紛失や偽造の心配がほとんどありません。費用はかかりますが、最も安全で確実な方法とされています。
ご自身の思いを確実に伝えるためには、公正証書遺言の作成を検討することが推奨されます。
生前贈与の活用
生前贈与とは、ご自身がご存命のうちに、ご家族などに財産を贈与することです。計画的に生前贈与を行うことで、相続時のご家族の負担を減らすことが考えられます。
贈与には「贈与税」がかかることがありますが、以下のような制度を利用することで、税負担を抑えながら贈与を行うことが可能です。
- 暦年贈与(れきねんぞうよ): 1年間(1月1日から12月31日まで)に贈与された財産が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。この非課税枠を毎年活用することで、長期間にわたって計画的に財産を贈与できます。ただし、連年贈与とみなされると課税される場合もありますので、注意が必要です。
- 特定の目的のための贈与:
- 教育資金の一括贈与: 子や孫への教育資金をまとめて贈与する際に、一定額まで非課税となる制度です。
- 結婚・子育て資金の一括贈与: 結婚費用や子育て費用として贈与する際に、一定額まで非課税となる制度です。
これらの制度は条件が細かく定められていますので、利用を検討される際は、専門家にご相談いただくのが安心です。
相続税の基本的な知識
相続税は、相続によって得た財産が一定額を超える場合に課税されます。相続税には「基礎控除」という非課税枠があり、相続財産がこの基礎控除額以下であれば、相続税はかかりません。
- 基礎控除額: 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
例えば、法定相続人が1人の場合、基礎控除額は3,000万円 + (600万円 × 1人) = 3,600万円となります。 この他にも、自宅の土地などの評価額を大幅に減らす「小規模宅地等の特例」など、相続税の負担を軽減するための特例制度も存在します。
相続税の計算は複雑であり、利用できる特例も多岐にわたります。ご自身のケースでどのように相続税がかかるのか、あるいは対策が可能かを知るためには、専門家への相談が不可欠です。
専門家への相談の重要性
相続や贈与に関する手続きや税金の問題は、法律や税金の専門知識が必要となるため、ご自身だけで全てを解決することは難しい場合がほとんどです。早めに税理士、弁護士、司法書士といった専門家にご相談いただくことが、安心への近道となります。
専門家は、ご自身の財産状況やご家族構成を考慮し、最適な相続対策を提案してくれます。また、遺言書の作成支援、相続税の申告、遺産分割に関するアドバイスなど、具体的な手続きにおいても力になってくれます。
相談できる場所
- 税理士: 相続税の計算や申告、生前贈与の税務に関する相談
- 弁護士: 遺産分割協議に関するトラブル、遺言書の有効性に関する相談
- 司法書士: 遺言書の作成支援(特に公正証書遺言の準備)、不動産の相続登記
- 金融機関(信託銀行など): 遺言信託など、財産管理を含めた総合的な相談
- 地域の専門家相談窓口: 各地の弁護士会、税理士会、司法書士会では、無料相談会などを実施している場合があります。まずは電話で問い合わせてみるのも良いでしょう。
まとめ:早めの準備と相談で安心を
高齢期における相続対策は、ご自身の築き上げた財産を大切なご家族に円満に引き継ぐだけでなく、ご自身の人生の集大成としてご家族への感謝や思いを伝える大切な機会でもあります。
遺言書の作成や生前贈与の検討、そして相続税の知識を深めることは、ご自身やご家族が安心して将来を迎えられるための第一歩です。複雑に感じるかもしれませんが、早めに専門家にご相談いただくことで、それぞれの状況に応じた最適な対策を見つけることができます。ご家族の笑顔のために、今できることから始めてみませんか。